介護
投稿日:2024/05/16
更新日:2024/10/14
「介護職員処遇改善加算」とは?取得の条件や給与明細での手当金額について解説
目次
介護士として働く皆さん、自身の給与に疑問を持った経験はありませんか?「他の職種と比べて基本給が低い」と思いながら働いているかもしれません。
中でも「介護職員処遇改善加算(以下、処遇改善加算)」という言葉を聞いたことはあるものの、具体的にどのようなものなのか、どのように給与に反映されるのかよく分からず悩みを抱えている方も多いのではないでしょうか。
この記事では、処遇改善加算の取得要件、給与明細での金額の確認方法、2024年6月から施行される新加算について詳しく解説しています。
処遇改善加算について理解を深めたい方、給与アップを目指して処遇改善加算を受け取っている介護施設へ転職を検討している方はぜひ参考にしてください。
処遇改善加算とは?
処遇改善加算は、介護職員の処遇改善を図るために2009年に設立された制度です。
介護職員のキャリアアップや昇給の仕組みを作る、働きやすい職場環境を整えるといった要件を満たした介護事業所に対して、国が補助金として支給します。
介護事業所が処遇改善加算を受けると、介護職員の給料に上乗せされる形で支給されます。
処遇改善加算の目的
処遇改善加算の目的は、介護職員の労働環境を改善し、職場の定着率を向上させることにあります。
介護業界は慢性的な人手不足で、介護職員の離職率も高い状況が続いています。
団塊の世代が75歳の後期高齢者となり人手不足がさらに深刻化するといわれる「2025年問題」を目前に控え、処遇改善加算は給与面でのサポートを充実させ、介護職員が長く働き続けられる環境を作ることに貢献しています。
処遇改善加算の取得率
処遇改善加算の取得率は高い水準にあり、大半の介護事業所が取得しています。
介護職員の処遇改善に関する加算等の取得状況によると、2023年10月時点で94.3%の介護事業所が処遇改善加算を受け取り、介護職員の給料に上乗せしています。
処遇改善加算の取得条件
処遇改善加算を取得するためには、介護事業所および介護職員が一定の条件を満たさなければなりません。
介護事業所と介護職員それぞれの条件について詳しく解説します。
介護事務所の条件
まず、介護事業所が処遇改善加算を受けるには、「キャリアパス要件」と、賃金以外の「職場環境等要件」をクリアする必要があります。
キャリアパス要件は3項目に分かれていて、全部もしくは一部を満たす必要があります。
キャリアパスⅠ | 職位・職責・職務内容等に応じた任用要件と賃金体系を就業規則などで整備すること |
キャリアパスⅡ | 資質向上のための計画(資格取得や昇給規則)を策定して研修の実施又は研修の機会を確保すること |
キャリアパスⅢ | 経験若しくは資格等に応じて昇給する仕組み又は一定の基準に基づき定期に昇給を判定する仕組みを設けること |
※厚生労働省:介護職員処遇改善加算
「キャリアパス1」は、介護職員が自身のキャリアパスを具体的にイメージできるようにするための要件です。
実現するためには、就業規則などにおいて、主任やリーダー、管理者など特定の職位に付くための必要な経験年数や資格、それに伴う給与や手当を明確に記載することが重要です。
「キャリアパス2」は、人材育成の観点から、多様な研修の機会を確保することを強調しています。
新人、中堅、リーダー、管理者など、キャリアの各段階に応じて必要な研修を企画し、計画的に実施することが求められます。
「キャリアパス3」は、介護職員が長期にわたり、モチベーションを維持して働けるよう、経験や勤続年数、資格保有に応じて昇給制度を設けることを求めています。
昇給や昇進の客観的な基準を明確にし、介護事業所が適切な労務管理を行います。
もう一つの要件である「職場環境等要件」は、処遇改善加算を取得するために満たさないといけない必須条件です。
職場環境等要件は、次の6区分の中で一つでも取り組んでいれば該当します。
区分 | 具体例 |
促進に向けた取り組み | 新人職員の募集方法の見直し、研修制度の充実、採用後のフォローアップ体制の整備など |
資質の向上やキャリアアップに向けた支援 | 資格取得支援、研修プログラムの充実、定期的な評価制度の導入など |
両立支援・多様な働き方の推進 | 育児・介護休業制度の整備、短時間勤務制度の導入、テレワークの実施など |
腰痛を含む心身の健康管理 | 腰痛対策としての介護技術の習得支援、腰痛対策研修、定期的な健康診断やストレスチェックの実施、介護ロボットやリフトの導入など |
生産性向上のための業務改善の取り組み | 業務プロセスの見直し、ITツールの活用、定期的な業務改善ミーティングの実施など |
やりがい・働きがいの醸成 | 職員の意見を反映させる仕組みの導入、表彰制度の導入、チームビルディング活動の実施など |
※厚生労働省:介護職員処遇改善加算
介護職員の条件
処遇改善加算の対象となるのは、介護サービスに従事している方です。介護職員であれば、正社員やパート、派遣といった雇用形態、資格の保有に関係なく受け取れます。
一方、ケアマネージャー、看護師、サービス提供責任者、理学療法士、作業療法士、事務員栄養士、調理師など介護サービスに直接関わっていない方は対象外です。
ただし、介護職を兼務している場合は、処遇改善加算の対象となる可能性があります。
支給金額や対象者の決定は、介護事業所に一任されているため、勤務時間や雇用形態によって支給される金額が異なることもあります。
処遇改善加算の受給までの流れ
処遇改善加算を取得するためには、介護事業所が一連の手続き・申請を行う必要があります。
介護職員自ら行動して受け取るものではないことを理解してください。受給までの具体的な流れは以下の通りになりますので紹介します。
1.処遇改善計画の策定:介護職員の賃金引き上げ、勤務条件の改善、研修制度の充実などの具体的な取り組み計画を記載します。
2.計画の届出:策定した処遇改善計画を都道府県や市町村に報告します。届出の際には、計画の詳細を記載した書類を提出し、福祉事務所の担当者による審査を受けます。
3.承認の取得:内容が適正であると判断されると、福祉事務所から承認をもらいます。
4.加算の請求:承認を得た後、処遇改善加算を請求します。毎月の給与支給前に加算額を計算し、所定の手続きを経て請求書を提出します。
5.加算の支給:国から介護事業所に対して、処遇改善加算が支給されます。介護事業所が職員一人ひとりの給与に上乗せして、手当として支払われます。
事業所が請求できる処遇改善加算の計算
上記の手続きを終えて、処遇改善加算の金額は介護事業所全体の介護報酬に、提供するサービスごとの介護職員数に基づいて決定される「加算率」を掛け合わせて計算されます。
処遇改善加算の金額の目安
処遇改善加算には、3つの区分があり、加算Ⅰが最も高くなっています。職場がどの加算になるかで、介護職員に支給される金額は異なります。
加算別による金額の情報を以下に記載しますので、どれくらいの金額が貰えるか参考にしてみてください。
加算I | 月額約37,000円相当 | キャリアパス要件Ⅰ+Ⅱ+Ⅲかつ職場環境等要件 |
加算Ⅱ | 月額約27,000円相当 | キャリアパス要件Ⅰ+Ⅱかつ職場環境等要件 |
加算Ⅲ | 月額約15,000円相当 | キャリアパス要件ⅠorⅡかつ職場環境等要件 |
厚生労働省「令和4年度介護従事者処遇状況等調査結果」を参照すると、加算取得率の高い介護施設・事業所は以下の通りです。
介護施設・事業所 | 届出(加算取得率) | 加算Ⅰ取得率 |
介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム) | 99.3% | 92.4% |
小規模多機能型居宅介護事業所 | 99.1% | 90.7% |
認知症対応型共同生活介護事業所 | 99.3% | 88.3% |
特定施設入居者生活介護事業所 (有料老人ホーム、ケアハウス等) | 98.7% | 92.8% |
介護老人保健施設 | 97.4% | 82.9% |
通所介護事業所(デイサービス) | 95.5% | 79.8% |
訪問介護事業所 | 92.7% | 75.2% |
具体的に介護職員がもらえる金額は、職員の資格や勤務年数などによって、介護事業所が決めることになるのですが、介護職員がもらえる加算金額の目安は以下の通りです。
・介護福祉士:月額1万円~3万円
・介護職員初任者研修取得者:月額5千円~1万円
・パートタイム職員:月額2千円~5千円
処遇改善加算の支給方法と支給時期について
目的にもある通り、給与をアップさせ介護職員が長く働き続ける環境を作るためにも、支給されたお金は職員の給料として還元されます。
そのため処遇改善加算は、通常の給与と一緒に支給されます。支給時期は、介護事業所によって異なりますが、毎月の給与支給日に同時に支給されるのが一般的です。
また実際には、賞与として年数回もらえるなど、特別手当として支給されることもあります。
介護職員の給与明細確認は大切
自身の給与明細を確認することは非常に重要です。給与明細以外に、処遇改善加算が正しく支給されているか確かめる方法は以下の通りです。
施設側での労務処理が正確にされているか確かめる
処遇改善加算が正しく支給されているかを確認するためには、施設側での労務処理が正確に行われているかを確かめます。
具体的には、勤務時間の管理や労働条件の適切な反映が行われているかをチェックします。
施設の経営状態を確かめる
介護施設の経営状態も処遇改善加算の支給に影響を与える要素の一つです。経営が安定している施設だと、処遇改善加算が適切に支給される可能性が高くなります。
一方で、経営状態が悪い施設では、加算の支給が遅れるなど、適切に支給されないこともあります。
自分が取得できているか確認する方法
以上で説明した内容は会社側の状況を確認する方法でしたが、自分が処遇改善加算を取得できているか確認する方法は以下の通りです。
1.給与明細の確認:まずは、自分の給与明細の一覧を確認し、処遇改善加算が反映されているかをチェックします。
2.事業所に問い合わせる:疑問がある場合は、事業所の人事部や給与担当者に直接問い合わせ、自分が処遇改善加算の対象となっているかを確認します。処遇改善加算が反映されていない理由や、計算方法について説明を受けることができます。
3.労働組合や職員代表に相談:事業所内に労働組合や職員代表がいる場合、相談して状況を共有しましょう。労働組合や職員代表は、介護職員の権利を守るために行動することができ、適切な対応をサポートしてくれます。
処遇改善加算は給与明細のどこに反映されている?
処遇改善加算は、給与明細の「手当」や「加算」といった項目に反映されることが一般的です。
具体的な記載方法は事業所によって異なりますが、「処遇改善手当」や「処遇改善加算」といった名称で記載されることが多いです。
明細に反映されていないと思われる場合はどうする?
給与明細に処遇改善加算が反映されていない理由として、職場である介護施設・介護事業所が取得要件を満たしていないことが考えられます。
これら介護事業所の種別・形態が対象に該当しない場合は、処遇改善加算は支給されません。厚生労働省の公式サイト「介護事業所・生活関連情報検索」で一度確認して調査しておきましょう。
職場の人事部や給与担当者に直接問い合わせても、労働組合や職場代表に相談しても解決が難しい場合は、地域を管轄する労働基準監督署や福祉事務所に相談することも検討してください。
第三者機関が介入することで、公正な判断が下されることがあります。
2024年から追加される処遇改善加算
2024年度介護報酬改定において、同年6月から新たな加算「介護職員等処遇改善加算」が創設されます。
この新加算は、これまでの「介護職員処遇改善加算」「介護職員等特定処遇改善加算」「介護職員等ベースアップ支援等加算」を一本化するよう変更し、介護職員の給与アップと制度の簡素化を図るものです。主なポイントは以下の通りです。
・加算率の引き上げ:2024年度に2.5%、2025年度に2.0%の段階的なベースアップが実施されます。これにより、介護職員の給与が引き上げられる見込みです。
・柔軟な配分:新加算では、対象を「介護職員を基本とし、特に経験・技能のある職員に重点的に配分すること」を原則としつつ、事業所内での柔軟な配分を認めています。
・区分の集約:新加算は、これまでの3制度の主要な算定要件を引き継ぎ、「介護職員等処遇改善加算(I)~(V)」という区分に集約されます。
・キャリアパス要件の再編:現行の要件をキャリアパス要件、月額賃金改善要件、職場環境等要件に再編し、より明確な基準を設けます。
・職場環境等要件の見直し:2025年度から職場環境の改善に関する要件も見直され、職場環境の向上が図られます。
・事務負担の軽減:制度の一本化により、事業所の事務負担が軽減されるとともに、柔軟な事業運営が可能となります。
参考:厚生労働省 「処遇改善加算」の制度が一本化(福祉・介護職員等処遇改善加算)され、加算率が引き上がります
まとめ
介護職員処遇改善加算は、介護職員の処遇を向上させるための重要な制度で、処遇改善加算を理解し利用することは大切です。
給与明細をしっかり確認し、必要な場合には事業所や労働組合に問い合わせることで、自身の権利を守ることができます。
2024年6月からの新加算によって、さらなる給与アップと働きやすい職場環境が期待できそうですので必見です。介護職員として働く皆さんが安心して長く働けるよう、この記事を少しでもお役立ちしていただければ幸いです。
この記事の著者
派遣のキャリアマルシェ_編集部
介護業界への転職・派遣に関する記事を制作・配信している編集部です。20年以上の介護施設運営歴のある弊社より、介護事業所で働く皆さんに役立つ情報を発信しています。
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